手術の成果もあって人はこれほどまでに呼吸できるのかというのを身をもって体験しています。
それでも日々安定しない声には違和感を覚えつつも、日常を過ごしている中ではあの入院生活が懐かしくすら思えてくることもあります。
入院前から行動制限をしてきたわけですが、退院後もしばらくは同じような制限の中で過ごしています。
たとえばお酒。もともと20代は飲むこともなかったのが、30代になってからは飲むこと自体も好きになったため、自由に飲めないことを今は少し窮屈に感じます。
そしてなんだかんだと欠かさずに続けていた運動も今は控えています。
これは術後の経過を見て、というのもありますが、入院する前に発覚した喘息の悪化が主な原因です。
自分ではコントロールしているものだとばかり思っていたのですが、測定した数値は思っている以上に悪いもので、「こういう症状はないか?」という医師の問いに当てはまることばかりでした。
元来、無理をするのが当たり前で、苦しくても気合だ、根性だで片づけてきた単細胞な脳はブレーキをかけることもなく、やり過ごしてきたという結果の表れなのでしょう。
そういえば夜中に目が覚めて苦しくて救急車を呼ぼうと思うことが続いていたのもまさに発作という症状そのものだったようです。
ちなみにそれを引き起こしている原因は大半が飲酒によるものでしたから、単なる飲み過ぎだと思っていた自分を今は恥ずかしく思います。
とは言え、これをコントロールするという課題が与えられたわけですから、経過を見ながらではありますが、むしろ運動を再開すること、そして部員らとまた共に練習することは今の目標でもあるのです。
それが出来ないからこそ、離れているからこそ、その欲求を駆り立てられます。
そんな私が、週末は久々にボートコースに顔を出し、練習に励んでいる部員らが羨ましくもありながら、同時に少し違和感を覚えたのです。
春練より続けてきたメニューにマンネリ化が見られてタイムが伸びてこないため、話し合った結果、新しいメニューにトライしてみるという話しを開始前のミーティングで聞き、賛同しました。
内容はともかく自分たちが気付いて、自分たちで伸ばしていく方法を模索していくのはとても重要なことです。
もちろん、それに不足があればこちらも指摘はします。ただ、よほどのことがなければ間違いというのもそうそうある競技でもありません。
楽をするのは簡単です。でも目指すものが高ければ高いほど、その選択をすることはむしろ考えづらいため、そこには安心もしています。
ただ、新しいメニューに取り組んでいる様子を見ていても、午後の乗艇練習を見ていても感じるのは成果に結び付いていないことで、これは本当に楽しいことなのか?ということです。
恐らく今は全員が伸び悩んでいます。正解は分かっていても、なぜ目指すところに近づいていかないのか。それが分かっていない状況はまさに苦しくて楽しくない状態と言えます。
量をこなさねばと躍起になっても、きっとこれは頭の中の考えも堂々巡りになるだけではないでしょうか。
練習後のミーティングで「このまま練習を続けて自分が伸びていくと思うか?」という私の問いに手をあげたのは上野一人でした。
上野は怪我もようやく完治するところで、今まさに復帰を果たし、この休んで遅れていた分を取り戻そうという気持ちが人一倍強い男です。
そんな彼はきっと青天井のごとく、きっと他の部員らを尻目に突き抜けていくことでしょう。
そして、たった1名ながら入部を決めた1年生の白川海生。彼もまたこの春の飯尾がそうであったように先輩らから多くのことを吸収し、伸びていくものと思われます。
ではこうした人の成長に欠かせないものはなんでしょう?
その一つにあるのは欲求です。
私自身も運動を再開したい!とこう駆り立てられるのは自身が体を鍛えたいという思いと同時に共に練習をすることで部員らの力になりたいという思いが明確にあるからです。
これはどちらかというとマズローの5段階欲求でいう承認欲求に近いかもしれません。
恐らく今、TAらが部のために何かしたいと自ら進んで取り組んでくれること、考えてくれること、これも承認欲求に近いものではないでしょうか。
でもこの次の段階と言われる欲求、『自己実現欲求』は全て自分次第なんだと思います。
自己実現の欲求は人生観、価値観などに基づいて自分らしく生きていきたいと願う欲求です。
ではそのためにどう行動するかも含めて取り組み方、考え方そのものを変えなければうまくモチベーションも含めて保てないものです。
ただ勝ちたいではなく、何のために勝ちたいのか。その動機も意志の強さも自身に問われます。
そう考えていくと人は自ずと未来への行動を変えていけるのではないでしょうか。
ですから今のままでは成長していない…。つまりこれは危機感以外の何物でもありません。
だから何をするかと考えて、「今まで以上に追い込む!」、「練習をもっと頑張る!」、「もっと考えていきましょう!」
そうではないですよね。そんな抽象的なものや精神論ではなく、足りないものを補うことがまず必要なのです。
衰えたと自覚する上野や私が考えるのもそれです。
今伸び悩む皆に足りないのは単純にボートを漕ぐ力です。そう、エンジンそのものです。
もうすでにこれだけやっているのに、、、と思うかもしれませんが、それで結果が伴わないのは中身に問題があるからです。
その中身が悪いというのは自分の取り組み方、考え方ひとつなのです。
できないことを無理してやり続けるのは面白くも楽しくもありません。
ではできることから近づけていきましょう。(それを私は皆に提案したつもりです)
現在行っていることが間違いなのではなく、時と場合、状況に応じて変化しなければいけないのです。
魔法のような指導という変化でもなく、バリエーションあるメニューという変化でもなく、本当に必要な練習をすることこそ求められています。
自己実現のために。
恐らくこれからの人生においても同じような壁にぶち当たることは数多くあると思います。
私は人生の成功者ではありません。もちろんボート競技でも決して優れた選手でも指導者でもありません。
ですから偉そうに皆に説くのは筋違いです。
ですが、ほんの少しだけ、自らの経験で得たものがあるので、伝えようとしています。
なぜか。
それは皆の自己実現を叶えたいからです。
そしてそれは同時に私の自己実現でもあるからです。
否定するようなことを言ったつもりはありませんが、そう聞こえていたらどうぞあしからず。
大いに悩むのは結構です。でも変えていくしかないのです。
インカレまで残り4か月を切りました。さぁ、どうする?
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